室町時代の末期に所謂李朱医学が僧月湖(享徳2年、明に渡り銭塘と云う所に住み医を行った僧医)の影響を受けた田代三喜(足利学校で医を学び、後に明に渡り李東垣、朱丹漢の方術を月湖及び恒徳の孫に受け、凡そ12年間の留学の後帰国)によって導入され、それが曲直瀬道三(初代)等の努力もあってわが国に拡められたことについては、前掲『啓迪集』の処でふれたが、道三流医学の真髄を伝えるといわれる『啓迪集』の中には中国の古医書『八十一難経』をはじめ60余種が引用されていることも衆知のことである。道三は『啓迪集』を編集するに当って『玉機微義』を常に座右の書とし、その基本にしたという。これは道三が享禄4年(1531)田代三喜に遇い、『素問』や『玉機微義』の医論を学んだからであろうと思われる。
『玉機微義』は金・元医学の四大家(劉完素、張従正、李東垣、朱丹渓)の学を伝える私撰の医学全書であると云われているものであるが、元末明初の医家、徐用誠の著『医学折衷』を劉純(明。陳西咸寧の人、字、宗厚)が増添した治方の書であるともいえる。
原著の内容は、中風、屡、傷風、痰飲、滞下、泄瀉、瘧、頭痛、頭眩、ガイ逆、痞満、吐酸、シ癘、風病、破傷風、損傷の17類に分けられていたものを、劉宗厚が33類を増して50巻50門にまとめた大著である。その門類目録を明、嘉靖9年(1530)序を掲げる刊本によって示すと次の通りである。
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巻1 |
中風 |
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巻2 |
湊証 |
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巻3 |
傷風 |
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巻4 |
痰飲 |
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巻5 |
滞下 |
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巻6 |
泄潟 |
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巻7 |
瘧 |
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巻8 |
ガイ嗽 |
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巻9 |
熱 |
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巻10 |
火 |
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巻11 |
暑 |
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巻12 |
湿 |
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巻13 |
燥 |
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巻14 |
寒 |
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巻15 |
瘡 |
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巻16 |
気證 |
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巻17 |
血證 |
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巻18 |
内傷 |
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巻19 |
虚損 |
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巻20 |
積衆 |
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巻21 |
消渇 |
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巻22 |
水気 |
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巻23 |
脚気 |
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巻24 |
諸疝 |
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巻25 |
反胃 |
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巻26 |
脹満 |
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巻27 |
喉痺 |
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巻28 |
淋閥 |
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巻29 |
眼目 |
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巻30 |
牙歯 |
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巻31 |
腰痛 |
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巻32 |
腹痛 |
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巻33 |
心痛 |
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巻34 |
頭痛 |
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巻35 |
頭眩 |
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巻36 |
ガイ逆 |
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巻37 |
溶満 |
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巻38 |
吐酸 |
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巻39 |
(やまいだれに至) |
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巻40 |
癘風 |
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巻41 |
風痛 |
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巻42 |
破傷風 |
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巻43 |
損傷 |
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巻44 |
廃疹 |
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巻45 |
黄疸 |
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巻46 |
霍亂 |
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巻47 |
厥 |
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巻48 |
:痺証 |
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巻49 |
:婦人 |
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巻50 |
小児 |
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眼科についてはその第29巻に眼目門が設けられ、およそ次の様な内容につき記されている。
巻29 眼目門
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論目為血泳之宗 |
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論目昏赤腫翳膜皆属於熱 |
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論眼証分表裏治 |
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論目疾宜出血最急 |
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論内障外障 |
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論瞳子散大 |
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論倒睫赤爛 |
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論目不能遠視為陰気不足 |
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論目疾分三因 |
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論倫鍼眼 |
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治風之剤 |
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局方蜜蒙花散 三因キョウ活散 東垣明目細辛湯 機要四物龍胆湯 防風飲子 |
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治熱之剤 |
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局方洗心散 済生羊肝丸 東垣瀉熱黄連湯 |
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治風熱之剤 |
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局方明目流気飲 洗肝散 銭氏瀉青丸 東垣連翹飲子 |
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治湿熱之剤 |
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神キュウ丸 東垣龍膽飲子 |
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理血之剤 |
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局方明目地黄丸 簡易加減駐景丸 地芝丸 |
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理気之剤 |
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局方定志丸 済生桑白皮散 |
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養陰之剤 |
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東垣神効黄?湯 益気聴明湯 人参補胃湯 |
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滋陰之剤 |
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東垣連栢益陰丸 滋陰腎気丸 |
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養陽滋陰之剤 |
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局方菊晴丸 東垣滋陰地黄丸 補陽湯 沖和養胃湯 |
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治障翳諸方 |
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龍木論還晴丸 局方蝉花無比散 蝉花散 本事方羊肝丸 秘方撥雲退翳丸 |
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点洗諸方 |
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局方湯泡散 三因立勝散 金露膏 宝鑑春雪膏 抜萃方 膽(この字、虫偏)光膏
灸雀目○(やまいだれに耳)眼法 |
このように『玉機微義』は、その序に『凡五十巻門分類集於論病因證治条理粲然既詳備云々』と述べられている如く、疾病を分類し、病因を論じ、治法をのべ、それに用いる薬剤を挙げている。また、その所説はその引用されている医書、中国古代の医書『内経』から宋、金、元代に至る諸書の医説であり、眼科においても目と五臓六腑との関係、五輪八廓説を基本に述べられている。
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