研医会通信  147号 

 

 2017.9.22
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研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。
この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は 『全身眼病論 』  です。

『全身眼病論 』  

 眼底疾患の九分九厘までが全身病に関連していて、眼疾患を全身病の一部として診なければならなくなっているといわれているように、眼病と全身病、眼病と他疾患との関係については十分な知識と理解が必要である。

 本書はこうした眼病と全身病との関係について、河本重次郎博士(1859~1938)が長年にわたる臨床上の経験と諸書の説により著わされたもので、 この種の専門書としてわが国では初めての著作と思われる。

 わが国へは19世紀後半から20世紀初めにかけて、シュミット・リンプラーの眼科書(H.Schmidt―Rimpler: Die Erkrankungen des Auges im Zusammenhang mit anderen Krankheiten、1898グ)ゃレノーの全身眼病論(Groeneuw u.Uhthoff:Beziehungen der Angemeinleiden und Organerkrankungen zu Veranderungen und Krankheiten des Sehorgahes. 1920.3 Auf)など数種の眼病と全身病関係の眼科書が紹介され、盛んに読まれたといわれ、 これらは浩瀞にして世界的名著も多かったが、それぞれ一長一短があり、そ の部分的翻訳も行われたといわれる。しかし、わが国には当時、眼病と全身病を論じた良き眼科書が見当らず、著者は本書の序言に、「… ココニ於テ予ヤー片ノ憂国心二駆ラン本邦ニモ亦一書ヲ著シ我眼科ノ快ヲ補ハント欲シ、前記ノ諸書及多般ノ雑誌ヲ渉機シ、燈下走筆、本書ヲ著スヲ得タリ…」と述べられている如く、眼病と全身病との関連を一早く重視して本書の著述を決心されたものと思われる。

  本書は河本重次郎博士により著述され、明治37年(1904)に著者出版され、上・下2巻(22.8×15 cm)ょりなり、上巻(136頁)には誘導論、検査法、第一編に急性伝染病、第二編に慢性伝染病、全身栄養病及び中毒の関係を、下巻(136頁)は第一、第二、第二編にわたり、脳、脊髄及び諸神経における眼の関係諸病を論じたものであるが、各巻の内容を目次により抄記すると次の通りである。

   上巻 誘導論 検査法

     第一編

           第1章 急性伝染病ノ関係

                     麻疹 狸紅熱 痘盾 種痘 室扶斯 回帰熱 マラリア熱 流行性寒冒 虎列拉 実布的里 百日咳 耳下腺炎 敗血症及膿毒症 他一ニノ伝染病

            第2章 皮膚諸病ノ関係

            第3章 嗅官諸病ノ関係

            第4章 聴官諸病ノ関係

            第5章 呼吸器諸病ノ関係

            第6章 消化器諸病ノ関係

            第7章 循環器諸病ノ関係

            第8章 腎臓病ノ関係

            第9章 男子生殖器病ノ関係

            第10章 婦人生殖器病ノ関係

            第11章 初生児卜分娩ノ関係

    第二編

        第1章 慢性伝染病ノ関係

                 梅毒 結核 瀬病

         第2章 優麻私斯ノ関係

         第3章 腫瘍ノ関係

         第4章 全身栄養病ノ関係

                  全身衰弱症 萎黄病及貧血症 亜性貧血症 紫斑病 壊血病 血友病 出血性 貧血 白血病 糖尿病 腺病質 死後ノ眼状

         第5章 寄生虫ノ関係

         第6章 中毒の関係

  下巻

    第一編

     第1章 眼卜脳ノ解剖的関係

                  視神経卜脳ノ関係 眼筋諸神経卜脳ノ関係 脳ト血管ノ関係

         第2章 視神経系ノ疾患

                  欝血乳頭 視神経炎 球外視神経炎 視神経消耗症 半盲症

       第二編

        第1章 眼筋ノ障害

        第2章 交感神経ノ障害

        第3章 顔面神経ノ障害 三叉神経ノ障害

        第4章 瞳孔ノ障害

        第5章 眼球震盪症

        第6章 眼筋ノ共同障害

   第三編

     第1章 脳諸病ノ関係

          脳充血 脳貧血 脳膜炎 脳出血 脳ノ血栓及血塞 脳膿瘍 脳腫瘍 脳動脈瘤 進行性麻痺 脳水腫 脳梅毒          

     第2章 延髄ノ諸病

                   進行性眼筋麻痺 急性出血性上脳灰白質炎 進行性球麻痺 頭垂病 日射病 頭蓋骨折

     第3章 脊髄及神経諸病

          散在硬化症 脊髄瘍 脊髄炎 脊髄空洞症 アクロメガリ 半面萎縮症 多発 神経炎 脚気 比斯的里 外傷性神経炎 神経衰弱症 願病 偏頭痛及浮動暗 粘症 小舞踏病 帝答尼 破傷風 振顛麻痺 トムセン氏病 バゼドウ氏病

 

 本書はこのように眼病と全身病について記述されたものであるが、病の部門にはまず、病の本体についてあらかじめその概略を記し、解説の十分でない部分には著者自作の図を挿入してその補足をし、次いで眼病について詳述している。

 本書が著わされたのは明治37年のことであるが、医学の進歩が日進月歩の今日、 この種の眼科書が眼科領域においても益々必要であると思われる。

 

 

 


図1 『全身眼病論』 表紙

 

 


図2 『全身眼病論』 河本重次郎 序言 1

 

 



中泉、中泉、斎藤 1990