研医会通信  241号 

 2025.6.18

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研医会図書館は近現代の眼科医書と医学関連の古い書物を所蔵する図書館です。
この研医会通信では、当館所蔵の資料をご紹介いたします。

今回は 『坤輿図説』です。

 

 

 

『坤輿図説』全 1冊

 

今月は21の動物の絵の入った手書きの冊子『坤輿図説』をご紹介します。

題箋にある「坤輿図説」をパソコンの検索ボックスに入れると、マテオ・リッチの『坤輿全図』や箕作阮甫の養子箕作省吾が編纂した世界地理の書『坤輿図識』、あるいは漢籍の地学書と思われる『坤輿図説』がヒットしますが、この薄い冊子はどれとも違うものです。

 

 七面鳥、ジャワ島の無対鳥、アフリカ(利未亜州=リビア州)の獅子、独角獣、鼻角獣(犀)、加黙良獣(カメレオン?)、山羊、般第狗(ビーバー?)、獲落(ハイエナ?)、撒辣漫大辣(サラマンダー?)、狸猴、意夜納獣、悪那西約獣、蘇獣、喇加多魚(鼈竜・ラガル、ワニか)、西楞魚(人魚)、把勒亜魚(鯨かイルカの類)、剣魚(イッカク?)、狗魚、南亜墨利加州蛇、十二時蟲(アリクイ?)という21の動物の図には、それぞれ短い解説があります。

 

 想像上の動物である独角獣(つまり一角獣)や人魚もあれば、火の中でも生きるという伝説があるものの、実際には黒と黄色の模様を持つという特徴のあるイモリの仲間である撒辣漫大辣(サラマンダー)、また、絵を見ると、般第狗はビーバーの尻尾を持っているように思えますし、悪那西約獣の絵はキリンだろう、と思えます。この本の引用元はどこにあるのでしょう?

 

 ヒントとしては、巻末の「林娜私所圖」という文字があります。Linnaeus, C. / Houttuyn, M.の “Natuurlyke Historie of uitoerige beschryving der dieren, planten en mineraalen, volgens het samenstel van den heer Linnaeus.” (『自然誌、またはリンネ氏の体系による動物・植物・鉱物の詳細な記述』)というオランダ語の博物学書が江戸時代、日本にもたらされて、本草学者や大名が研究していました。ハウトイン著『自然誌』と略されることの多いこの書物は、全37巻、37冊で296もの銅版画による挿図がありました。天保年間に富山藩主の前田利保と福岡藩主黒田斉清が「蘭書ノ林娜氏トイヒ(ママ)ル書ヲ一部両公ニテ購求セラレ、前後ヲ操替熟覧セラルヽ事モアリ。」という記事も残っており、この『自然誌』は「林娜私」とか、「林娜氏」「林娜斯」(リンナウス)などと呼ばれていました。蘭学に熱心だった大名や、飯沼慾斎、宇田川玄真・宇田川榕庵らが見ていた西洋の博物学書に、『坤輿図説』の図がないか、調べたいところです。

 

 

  『坤輿図説』 最初のページ。七面鳥の絵が描かれる。

『坤輿図説』全頁の画像pdfはこちら