2025.9.17
図1『詩経小識』表紙
『食療本草の考察』(上海自然科学研究所彙報 第一巻 第三号)1930年2月
中尾万三 編
筆者が中学生の頃、世の中は日中友好の機運が盛り上がり、NHKは「シルクロード」の特集を始めていました。日本の正倉院の宝物にも通じる西方伝来の文様や仏像の美しさに、多くの人が惹かれていきました。今考えると、あの頃が世界は全体に人々が寛容で、さまざまな文化と触れ合うことが楽しみである、最高の地点だったようにも思えます。
「シルクロード」好きの筆者は「敦煌」と聞くとすぐに手に取ってしまうのですが、今月の中尾万三先生の本は、その敦煌で発見された『食療本草』について考察された報告書です。昭和4年の序文には、第一編として敦煌石室発見食療本草残巻考、第二編として、食療本草遺文をなぜ取り上げたか、ということが詳しく書かれています。『食療本草』の編者である孟詵(621—712)が90過ぎまで生きたことから、「其書が極めて信ずる所により書かれたる事を想う可し」と、この書物を研究する意義を述べています。孟詵が師である孫思邈(581—682)の説を必ずしも踏襲せずに、また当時伝えられていた食経に準拠せずに、新たに補養の処方を編纂したということも記しており、千金食治方などと並べて読んでみることも面白いかもしれません。
図2 『食療本草の考察中尾』目次と扉
図3 同本 序文
図4 同本 「校合食療本草遺文」のページ